組織概要

名称因幡堰土地改良区(いなばぜきとちかいりょうく)
設立年月日昭和27年2月20日
所在地〒999-7601 山形県鶴岡市藤島字笹花16番地2
理事長齋藤 豪(さいとう つよし)

(1)概要・立地条件・経営規模及び営農類型について

【立地条件】

 本地区が位置する山形県鶴岡市は、全国有数の稲作地帯である庄内平野の南部に位置し、西側は日本海に面しています。市の面積は東北地方の市で最も大きく人口は県内第2位の13万人です。気象は、暖流である日本海の対馬海流の影響を受け、年間平均気温は12.6℃と内陸部より高いです。夏の平均気温は22.6℃、1年の最高気温は7月下旬から8月中旬まで30℃以上の日が多いです。冬は海洋性気候のため、内陸部より暖かく、平均気温は2.7℃となっています。年間降水量は2,211mmと県内でも多雨量地区であり、これが水田を潤し、また、本県最大の三角州低地であることなどから日本有数の穀倉地帯となっています。

 因幡堰土地改良区は鶴岡市の北東部に位置し、旧藤島町を中心に東西3km、南北に14kmに亘る平坦な耕地で全区域の面積は1,381haです。上流地区は出羽丘稜、西は赤川・黒瀬川、東は東2号幹線用水路・藤島川を経て南北細長く帯状をなしています。下流地区は藤島川並びに京田川に囲まれた地域となっています。水源は、霊峰月山をはじめ、朝日山系の恵みを束ねる一級河川・赤川によってめぐらされています。

【概要】

 因幡堰土地改良区は鶴岡市の北東部に位置し、藤島町を中心に、羽黒町、櫛引町の旧三町に跨る1,300余haを有する平坦な耕作地帯です。平成17年の市町村合併に伴い現在では全域鶴岡市となっています。設立は昭和27年2月、以来、独自の活動、運営を展開し今日に至っています。現在の主たる主水源は赤川頭首工ですが、改良区設立の基本である因幡堰開削の歴史は古く、慶長6年(1601年)に遡ります。山形城主最上義光公の家臣新関因幡守久正公が赤川に水源を求め開削した人工堰(因幡堰)でしたが、1960年代の高度経済成長に呼応し、農業の近代化推進のため農業用水の安定的供給を図る必要上、国営赤川土地改良事業(昭和39年~49年)により、因幡堰を含む赤川既存の取水井堰8カ所を統合する赤川頭首工が造成されました。

 区域内のほ場は全て整備済みで、ほ場整備事業をはじめ、農業用水再編対策事業、地域用水機能増進事業、基幹水利施設管理事業等々、数々の農業農村整備事業に取り組み近代的農業経営に資しています。区域内に耕作放棄が全く見受けられないことがその証左です。中心の稲作では、早くから環境型農業を取り入れ(全国平均の2倍、山形平均の1.6倍)県の主力品目の“はえぬき”やトップブランドの“つや姫”では安定した良質米の産地として高い評価を得ています。

 また、広報活動の一環として早くから21世紀土地改良区創造運動に取り組み、第1回広報大賞に輝くとともに、農村環境保全活動として、農地・水・環境保全対策のモデル事業に加入、その後も地域住民と共に模範的な取り組みを行い、区域のほぼ全域をカバーするなど地域にとって不可欠の団体として住民から認知されています。

 土地改良区の執行体制も理事5人、監事2人、専任職員5人と少数精鋭で経費の節減に努めているとともに、財政運営も健全です。

 主水源である赤川頭首工は、因幡堰土地改良区と庄内赤川土地改良区の約10,000ha余に及ぶ水田に農業用水を供給するメイン施設ですが、築造後約40年が経過し、寒冷な気候条件も加え老朽化が進行して維持管理に多大な労力と費用を要するようになってきました。このため、平成22年度から国営赤川二期地区土地改良事業が進められています。

 庄内赤川土地改良区とは、赤川地区共同管理協定や負担協定を締結し、国営、県営事業も含めそれぞれの施設を明確に、効率的に管理しています。

令和3年度現在 面積 1,381 ha 組合員 858 人

【本地域における経営規模及び営農類型】

 本地域の耕地面積は、水田1,381ha、平均経営面積1.60haです。営農類型では、中核農家の経営状況は水稲主体に、果樹の庄内柿と野菜を生産しています。

 鶴岡市は平成22年度にデビューした県期待の新品種水稲「つや姫」生誕の地として、特別栽培やエコ特別栽培農産物認定認証事業を実施しており、安全で良質な農産物を生産するために農業を中心とした資源循環型まちづくりを行っています。

(2)用水源及び現在まで実施した主たる事業について

【用水源】 

 本地域の主水源は、霊峰月山、朝日山系に発する赤川で、赤川頭首工により西一号幹線用水路を経て、本区の主要施設である東二号幹線用水路まで引水されています。赤川の流域は古来よりこの川の恵みを得て豊かな水田を形成し、九つの堰により維持されてきましたが、赤川にはこれら以外にもう一つ重要な組織がありました。国、県による治水対応がなかった時代に赤川の治水、水源涵養、各堰に水を乗りやすくする河川工事などを担う赤川水利土功会、それを引き継いだ赤川普通水利組合、そして現在の赤川土地改良区、因幡堰土地改良区と一貫して赤川の治水に腐心してきました。明治41年には鶴岡市大鳥池の国有林13,666ha 、大正3年、6年には同市上田沢及び田麦俣地内の国有林16,856ha 計30,522haを保安林として設定させ、また、国有林不要存置林1,120haを払い受け、私有林199haを買収し、大正2年に始めて人工林を行い、大正8年には施業計画を樹立し水源涵養など多面的機能の発揮に努めています。これら水源涵養林は、庄内赤川土地改良区との共同財産として平成18年に締結した赤川地区協共同管理協定に基づき適切に管理されています。昭和9年には赤川支流大鳥川上流の大鳥湖(自然湖)に制水門を設置したことにより、現在でも大鳥ダムとして114万トンもの貴重な用水を確保、渇水時における赤川流域10,000ha余への農業用水への供給を実現しています。

【実施した主たる事業】

 因幡堰土地改良区の水源は、慶長6年(1601年)山形城主最上義光公の家臣新関因幡守久公が赤川に水源を求め開鑿された人工堰(因幡堰)であったが、農業用水の安定的供給を図るために、国営赤川土地改良事業(昭和39年~49年)により、因幡堰を含む赤川既存の取水井堰8カ所を統合する赤川頭首工が造成されました。

 同時期には、附帯県営事業(昭和42年から平成元年)並びに大規模ほ場整備事業(昭和43年から平成元年)により、30a区画農地整備と末端用排水施設や管理組織の体系整備が行なわれましたが、県営事業等採択要件を満たすことのできなかった小規模地域の荒川・向田・富沢・昼田の4地区については、団体営土地改良事業(平成元年から平成3年)を実施することで、大型機械化や大規模営農に支障のない用排水施設が整備されました。

 さらに、最後まで基盤整備に慎重だった柳久瀬地区も担い手育成基盤整備事業(平成6年から平成11年)の実施に至り、ここに管内生産基盤の整備が完了しました。

 しかし、事業において安全性や生産性の向上に重きを置き農業用水路としての機能性や効率性を重視したこれら整備は、一方で市街化が進む地域にあっては、周辺住民から「水への興味」や「水辺の持つ教育力」を奪う結果となりました。また、整備の時代から管理の時代へと大きく舵を切る中で、宅地化や混住化が引き起こす生活排水の流入は、水質悪化などの様々な環境問題だけではなく、新たに土地改良区へ一方的な負担を強いるものとして表面化しています。

 因幡堰土地改良区は、このような状態を解消すべく、当時の藤島町と共に地域用水機能増進事業(ソフト事業:平成10年から平成19年)を実施しました。農業用水や水路の機能維持と増進を図りながら、昔ながらの水辺環境と清流をこの街並みに再生させるため、地域住民とのパートナーシップによる維持管理体制のしくみと改修整備を一体的に考えながら景観の保全及び親水化・生態系の回復が図られました。また、同時に農業用水再編対策事業(ハード事業:平成11年から平成20年)では、農業用水の節水・有効利用を図るための整備を行いました。このとき造成したファームポンドの運用にあっては、よりきめ細やかな用水需要に応じた再配分が可能となったことにより、地区の慢性的な水不足が解消されただけでなく、揚水機の運転時間の短縮や番水などの強制的配水管理体制の廃止のほか、これまで無効放流されていた貴重な水資源の有効活用として、管内全域で再配分することで年間数百万トンもの新たな水資源の確保が可能となりました。

 現在、ほ場整備事業によって造成された水利施設等が築造後30数年経過し、老朽化による機能低下が見られるようになり、施設修繕費が増加傾向となっています。このままでは、ほ場への農業用水の安定供給はおろか、用水の確保に支障をきたすことから、県営による基幹水利施設ストックマネジメント事業(平成23年から平成27年)を実施し、揚水機場等の建屋、電機設備等の補修、更新等により施設の長寿命化を図り、維持管理費の軽減に努めています。

(3)事業における土地改良区の取り組み状況について

 事業の実施にあたっては、組合員の同意が前提であるが、より組合員の意見を反映させるため事前に意向調査を実施し、それを基に町内会単位毎に説明会を開催しています。きめ細やかに事業内容を説明するとともに、事業の啓発・推進の了解に努めています。

行政との緊密な連携と組合員の負担軽減
 行政との関係では事業に伴う地方自冶体の負担は国で進めているガイドラインでお願いしています。事前協議においては、事業内容や負担等も含め、県並びに市との連絡調整を十分に行ってきたことの効もあり、これまで全面的な協力が得られてきました。特に国営赤川二期地区土地改良事業については、関係市町に対して改良区として積極的に働きかけを行ったことにより、地元負担2.34%が実現したことによって、組合員の大幅な負担軽減が図られています。

農村環境保全への支援
 農村環境の保全に係る多面的機能(農地・水保全管理)支払交付金では、共同活動、向上活動に対して県、鶴岡市から非常に高い評価と共に予算の確保をいただいています。土地改良区としては、活動組織が今後も自主的にハイレベルの環境保全活動が継続できるよう、定款を改正し、会計処理を含めた事務業務の全面支援を行っています。

 また、管内には30の町内会が存在するが、その自治会、老人クラブ、婦人会、子供会、生産組織等の協力を得て、新たに「地域部会」と称する活動管理組織の立ち上げを提唱し、土地改良区との「アドプト協定」により環境保全活動にあたっています。このことにより、土地改良区の総代、役員もより積極的に町内会活動や地域活動に係わることになり、その効果として地域住民の農村環境に対する意識向上が図られ、土地改良区の仕事についても理解が得られるようになってきました。

 地域の合意のもと、地域との共存を図りながら、持続可能な社会の構築に向けて、地域に不可欠な組織となるため、土地改良区の総力を挙げて地域活動の支援を行っています。

(4)施設の維持管理について

 因幡堰土地改良区の基幹施設は、国営事業で造成された赤川頭首工及び管理所と赤川用水機場、西一号幹線用水路、東一号及び東二号幹線用水路等であるが、東二号幹線用水路以外は共同管理協定に基づいて庄内赤川土地改良区が直接管理しています。

 赤川頭首工は、平成4年から国営造成施設管理事業、赤川用水機場は平成8年から、西一号及び東二号幹線用水路(西一号幹線用水路の高寺分水工下流から鶴岡市柳久瀬字九日田地内の第12小分水工まで)区間は、平成11年から基幹水利施設管理事業として県管理となっています。また、熊出堰頭首工、東一号幹線用水路、大鳥ダム、成沢川排水路及び西一号幹線用水路より直接引水する南部用水路及び県営小黒川排水路、七曲排水路、高寺排水路、大洞寺排水路、楪排水路、長沼十文字排水路の管理は受益を得る鶴岡市及び各関係土地改良区との契約書・覚書・協定書に基づき負担し、共同管理によって適切に維持管理を行っています。

 国営事業や県営事業等で造成された施設における農業用水の確保と適正配分、施設の適切な管理を図るため、かんがい期間中は専任巡視員を配置し、毎日2回各用水路の巡回を行うことで末端用水調整に支障を来さないよう万全を期しています。

(5)組織及び組織の活動状況について

 総代会・理事会・監事会等によって適正な管理運営を行っています。理事会の補助機関として委員会を置き、総務委員会、用排水調整委員会、土地改良事業委員会において、それぞれの諮問に応じた調査検討等の対応を行っています。

 施設の維持管理は、これまで、国営施設や県営施設について、東北農政局長並び山形県知事との間に締結されている土地改良財産管理委託協定書、譲与契約書および本区幹線水路管理規程に基づき、生産組織を主体とした各地区水利調整協議会が施設の改修及び修繕等の整備を行ってきたがワークショップ及びグラウンドワーク活動(植栽や生態系保全池・安全柵設置)をとおして、住民の理解が広まったことにより、現在では農地・水保全管理支払交付金により組織再編された各地区「地域部会」とのアドプト協定等による直接管理により、施設の土砂浚渫や草刈り等の恒常的な維持管理等が行われています。

 また、宅地化が進むなか居住区を通る水路では、ワークショップやグラウンドワークの活動により地域資産としての評価が高まり、地域住民による自主的な保全組織「いなば愛好会」の発足に繋がっています。

 「地域部会」や「いなば愛好会」などの末端組織の広がりと、その自主的な清掃や草刈等の環境保全活動は、農家の維持管理費の負担軽減に大いに役立っています。

(6)土地改良区運営内容について

 土地改良区の運営にあたっては、総代会・理事会・監事会及び監査を適期適正に実施しています。区報を年1回発行し、事業計画や予算・決算・賦課金・財務状況等を組合員に周知しています。

 事業の推進にあたっては、財政調整資金(積立金)の活用を基本としているため、事業による起債はなく、現在でも借入金はありません。

 賦課金の徴収については、関係農協及び管内の銀行と徴収委託契約により自動口座振替制を導入し徴収事務の効率化を図っており、平成30年度は徴収率99%の実績となっています。

 賦課金の未納は、耕作受託を含む比較的大規模耕作者に見受けられることから、所有者をもまじえ担当理事が先頭に立ち説明、説得にあたっています。結果、未納分について所有者が肩代わり納付するということも出てきており、未納解消に向けて工夫しています。

 なお、区域内における耕作放棄地は全く見受けられません。

 事務の合理化として、マッピングシステム(農地流動化、水土里情報システム)の導入と会計事務を電算化することにより能率の向上と業務の迅速化を図っています。

 また、農業用水再編対策事業や地域用水増進事業等によって整備した公園では、地域に親しまれる憩いの場を提供しながら、生きもの調査のための親水池として毎年地元小学生の学習の場として活用されています。このように、地域と連携を図っていくなかで「水辺の持つ教育力の再生」に子供たちの笑顔や地域の未来があることを経験から学んでいます。そこに水土里ネットの重要な役割があり、ひいては社会貢献となるとの揺るぎのない信念の基に、農村環境と水環境の保全につながる地域活動に主体をおきながら施設の維持管理業務を展開しています。

(7)その他

 因幡堰土地改良区では、平成18年に農地・水・環境保全向上対策のモデル事業に加入し、近年頻発傾向にある局地的な集中豪雨に対応するために、「水田貯留機能増進」(田んぼダム)に取り組んでいます。この取り組みは、農家にとって転作田の湛水被害の軽減効果も期待きるが、何より一般住民の洪水被害の軽減が図れるということに最大の利点があります。この重要性と理念、地域効果を説きながら、農家の意識改革を図ってきました。また、同時に一般住民に対しても「田んぼの学校」の開催をとおして、農業用施設が地域生活において果たしている重要な役割(多面的機能)や農家が行っている安心安全に向けた取り組みを紹介しながら、さらに広く理解の醸成が図られるよう活動を展開しています。

 本区としては、水源涵養林を護り、貴重な水資源を利水という面で地域の基幹産業である農業を支えてきたが、これからは地域環境の保全という観点も取り入れ、治水という面にも積極的に取り組むことにより、地域社会への貢献を果たすことも今後の土地改良区に与えられた大きな役割と受け止めています。

 時代の要求に組織が取り残されることのないよう先を見据え、様々な地域活動をとおして、生産者と消費者という括りをはずし、共に生活者として「国民全体と農業農村が支え合える社会」の実現を目指しています。

 このような運営の理念に基づいて地域住民参画による個性ある地域づくりが進められており、地域住民が一体となった清掃や植樹や植栽、各種イベント等を開催実施しています。現在では、このような活動が全国から注目され、行政機関をはじめ土地改良区、農業農村整備関係、地域保全組織などからの視察が後を絶たない状況です。

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